スミレの50のお祝いに

生誕半世紀を記念してしてみたこと

はじめてのスイーツマラソンで、食べて走る充実感を得る。

マラソンが流行っている。

記念事業にどうですか、と勧められるものの一つだ。

スミレは走るの大嫌いだし、体力的にも無理。42.195キロなんて有り得ない。しかし、マラソンといっても近頃はいろいろある。短い距離なら意外とできるかもしれない。おちゃらけた遊びのような走るイベンもあるみたいだしね。早く走るのが目的でないものならできるかも。

 

 で、スイーツマラソンを選んでみました。距離は6キロ。

スミレの只今の運動能力は、「6キロ走ったことなんて、20年以上前かもしれないが、5キロ歩くことはたまにある。」くらい。

スイーツを食べながら走るって、よく意味わかんないけど、サイトにはずらりと並んだスイーツに群がる人々の写真が載っている。走り終わってからのご褒美的な??

 

「スイーツマラソンに出ようと思うんよ~」というと、食いしん坊の娘二人と、元本格ランナー(短距離だけど)、アシコが一緒に参加することになった。

 

 

3週間後にスイーツマラソンが迫ったので、さすがに少しは走った方がいいかと、3キロほど軽くジョギングしてみた。しかし、本当に何年も長く走ったことがないのだ。歩くくらいのスピードでゆるゆる走りだ。

結果、翌日右膝が痛くなった。やばい。アシコの指導で冷やして安静にした。

 

2週間後にスイーツマラソンが迫ったころ、椅子に座った状態で、両手で肩を抱いて(つまり手の反動を使わずに)片足を前に浮かせて立つ、という筋肉がどれくらいあるかを測るための運動?をした。座る椅子が低くてもできるほど良いという。

これがびっくり、なんと普通の椅子で全く立てない。うそでしょ?スミレ50歳、こんなはずではなかった。

明らかに腿に力が入らないので、階段の上り下りをちょこちょこするようにした。だんだん6キロ走れるのか、不安になってきた。

 

来週にスイーツマラソンとなり、もう一度、軽くジョギング。4キロくらい。走り終わると足ががくがくする。でも今回は膝も痛くならない。

6キロ。まぁ大丈夫じゃない?ダメでもいいや。

目的は走るよりスイーツだし。と思うことにする。

 

 

明日が本番になる頃には、スイーツマラソンとはどんなものか、だんだんわかってきた。

コースは2キロを3周するという周回コースである。スタート地点から一番遠い感じの地点にスイーツを並べたステーションというものがある。ここでしかスイーツは食べ放題ではない。つまり、走り終わったらもう食べられないのだ。ここでちょっとショック。ちっ、コーヒーと一緒にゆっくり食べる、なんてできないんだ。。。

速くゴールしない方がたくさん食べられる。でもやっぱりちゃんと完走したいしな、せっかくだし。6キロコースは制限時間50分なのだ。食べて走って、もしかしてすごく忙しい?

ペース配分は、アシコに任せよう、よくわからないし。

 

こうして当日を迎えた。

 

 

 福岡のスイーツマラソンは、海の中道公園で3月初めに開催された。

 

 案内状は、駐車場が混むから車で来ないでオーラを出しまくっていたが、車で行った。走って疲れて電車を乗り継いで帰るなんて、50歳にはハードルが高すぎる。しかし渋滞してたりするのも嫌なので、朝6時に出発した。もちろん朝ごはん抜きである。さすがに水分は取っておかなくては、とペットボトルを用意したが、固形物はスイーツ一筋だ。

天候は、前日雨。朝方まで降っていたが、出発する頃には止んでいた。雲は相変わらず重く立ち込めており、今にも雨粒が落ちてきそうである。どうか、走り終わるまでは降りませんように。

受付を済ませ、ゼッケンをつけ会場へ向かう。タイムはゼッケンに着いたセンサーが測ってくれる。

会場には、いるいるたくさんのランナーが。こんなイベントで走り慣れた感じのコスプレイヤーはお互いに写真を撮りまくっている。「鍛えてます」オーラを放つ、いかにもな「ランナー」は、準備運動に余念がない。スミレたちのようなちょっと照れ気味の親子なんかも多い。

アシコと相談して、一周15分のペースなら余裕だろう、ということになった。スタートしてスイーツステーションで食べおわる、までを8分で(アシコが)タイマーセットし、合図で復路につくことにする。といってもその辺スミレはアシコ任せでお気楽だ。

コース別に分かれて走る。スミレが走る6キロコースは、一番初めにスタートだ。

 

 

8時50分、スタート。どどどどどっと一斉に走り出すさまは、スミレの気分を盛り上げる。よーし、頑張っちゃうよ。と、初めは周りに合わせてややスピードを上げてみた。が、速い!みんな速すぎるよう!なんと娘二人はその波に乗ってあっという間に遠ざかっていく。若さにはかなわないわ~。

アシコは?スミレより少し遅れた位置でペースを保っている。「そんなに速いと持たないよ~。ゆっくりいこ~」

そうか、周りにつられてはいけない、焦るな焦るな。アシコと並んでドタバタと人の波を抜いたり抜かれたりしていると、前方に白いテントが見えてきた。スイーツだ~~~!!!本日の第一目標だ~~~!!!

テントの手前に行列が出来ている。何の行列?なんと手を消毒する列だ!アルコールを手にシュッと一吹きするために並んでいる。それと理解するや、もちろんスミレはすっ飛ばしてスイーツに群がる人山に乱入した。「こんなのに並ぶなんて、日本人やな~」とアシコも同様だ。日本人は清潔好きでちゃんと並ぶということだが、スミレもアシコも日本人だったはずである。

パッと見、チョコレート菓子がカラフルに並んでいる。ちょいちょいとつまみながら、ざっと見ていく。ケーキ類は小さくカットしているのに楊枝がさしてある。食べ放題なんかでよくありがちな感じのケーキだけど、まぁそんなものでしょ、全部を食べるのは時間もお腹の空間も足りないので、美味しそうだと思うものを瞬時に見分け食べていく。これは決断力と判断力を要するマラソンだ。とにかく急ぐがねばならない。

スイーツステーションでは頭がスイーツのことでいっぱいになるので、アシコと離れてしまった、食欲がちょっと落ち着いたところでお互いに相手を探し出し、合流する頃には出発の合図のタイマーが鳴る。

飲み物は、ステーション直後に水とお茶とスポーツ飲料が用意されている。走りながら紙コップをとって飲んで捨てると、うわぁマラソンランナー気分が上昇する。

タイムはアシコに任せっきりにして、とにかく走る。残念なことに雨もパラついてきた。

 

2周目、ステーションが見える辺りに来たところで、おにーさんがマイクで叫んでいる声が聞こえてくる。「ただいまチーズタルトが登場です、チーズタルトです!」瞬間、きゃーーーー!と嬌声があがる。おぉ、急がねば!ところが、着いた時にはもうないのである。「もう少ししたらエッグタルトが出ます!」またもおにーさんが叫ぶが、これを待っている時間はない。なんなの、このジレンマ。

なくなったところに新しいスイーツが補給されたりしているが、基本はあまり変わっていない。食べていないものを選んでパクついていく。だって、せっかくだもん、出来るだけたくさんの種類を食べたいではありませんか。タルトも食べたかったのに。

 

3週目、もうこれがラストだ。あっという間に走ったみたいだが、結構長く感じる距離を黙々と雨に濡れながら、スミレとアシコは走り続けている。くたびれてきた。

エッグタルトの姿も既にない。すべてはタイミイングの問題だ。

新しく杏仁豆腐が配られている。でも取りやすいように作られてなくて、おねーさんがパックから少しづつ小さい容器に取り分けているが、全く間に合っていない。何やってんだ、大渋滞だ。ダメだ、これも諦めざるを得ない。

とにかくこれで最後なのだ、目につくものから口に放り込む。美味しいとか甘いとか感想は後回しで食べることに専念する。

おにーさんが叫ぶ。「制限時間まであと8分です!今出れば余裕でゴールできますよ~!」おぉそうなのか、仕方がない、ゴールへ向かって行くぞ。

スミレとアシコはペースを保って順調に走っているつもりだった。おにーさんも余裕って言ってたし。

 途中、既にゴールした娘が声をかけてきた。「頑張って~」

「はーい」なんて暢気に答えていたら、突然アシコが隣で叫んだ。「スミレ!あと1分切ってる!」ゴールと、その横にある大きなデジタル時計が見えたのだ。え?目の悪いスミレには、時計の数字はおろかゴールがどこだかわからないような位置にいるのだよ、まだ。

あわててスピードを上げる。スミレの前にも後ろにもたくさんの人がいるが、なにこの人たちみんな脱落組?ゴールどこ?とにかく走る走る。

やっとスミレにもゴールがわかった。時計は残り20秒?わわわわわ~全力で走り抜ける。

 

後で、娘が、声をかけた時には絶対間に合わないと思ったと告白した。

スミレも、ゴールラインが分からず、間に合わなかったかと覚悟した。

しかーし!完走証明のタイムを見ると、49分47秒、タイムアウト13秒前にゴールインしたのである。スミレ、頑張った!

このギリギリゴールのお蔭で、充実感が半端なかった。最後にこの猛ダッシュをしていなかったら、こんなに「スイーツマラソン楽しかった!」にはなってなかったと思う。何かを達成する、というのはこんなにも人を幸福にするのである。人生をより楽しむには、乗り越える試練が必要です、やっぱり。

 

雨もひどくなり、イベントはまだ続いていたが、早々に帰った。

あぁ楽しかった。このマラソンには、ものすごい種類と量のスイーツが準備されていたらしいが、50分という時間制限は絶妙と言えるだろう。食べるに重きを置いたかなりの人がゴールしていないはずだ。

だが、出るならやはり、完走を目指すことをお勧めする。

食べられなかったスイーツたちの思い出も含め、スイーツマラソンが楽しかったのは、完走ありきのように思えるからだ。

満足だ。もう二度と参加しないけど。

スイーツは、やっぱりコーヒーと一緒に、ゆったりいただきたい。