スミレの50のお祝いに

生誕半世紀を記念してしてみたこと

はじめての乗馬は、足腰の強化と裾留が必須だった

 馬に乗ることにする。

 乗ったことがないわけではない。スミレは基本動物好きなので、動物園なんかで馬に乗れる、などということはやりたがる方だ。だがそういうのは、馬にまたがって係のオジサンにひもを引かれ一周回って終わり、ということばかり。距離に長い短いはあっても、子ども向けである。さすがに、40を過ぎてからは、曳かれる馬乗りはしていない。と、思う。

 

 乗馬、という体験ができるところはないかいな。結構乗馬クラブってあるな。

見つけました、いいのを。KRC馬センター(福岡県鞍手町)、「時間関係なく一人で乗れるまで4500円」とある。一人で乗れるまで。これこれ、これがいい。

 「これいいと思わない?」と同僚の長谷部ちゃん(スミレのオタクマスター。オタクに関してなんでも教えてくれる。現在とうらぶ長谷部にハマってるためこの仮名)に言うと、彼女も一緒に行くことになった。長谷部ちゃんも動物好きで、他の乗馬クラブの体験をし、少しは乗れるらしい。

 早速電話して予約する。雨が降ると乗れないので、当日確認の電話が入るらしい。

 

 どうやらスミレの50周年記念事業には、天気の神様が味方している。真面目に暮らしてきたかいがあったもんだ。

 2015年10月31日、秋晴れの気持ちいい午後、KRC乗馬センターへ。

周りに山しかない感じの、ほんと何にもないところにそれはあった。受付するような建物があるが、近づくと、明らかに廃屋というか使用されていない感ありありである。大丈夫なの?とキョロキョロ周りを見ると、低地にある馬場で馬を引いているオジサンが、「予約の人~?こっちきて~」と声をかけてきた。

 長谷部ちゃんと馬場へ降りていくと、ニコニコしたオジサンとオバサンと、黒い大きな馬と小さめの茶色い馬と白い馬が、穏やかにのんびりといった風情で立っている。

「本当ならね~、初めての人は茶色いのに乗ってもらうんだけど、今日は足を痛めてるから、この黒いの乗るからね。さ、ヘルメット付けて。じゃ乗ったことある人から乗るよ」

 骨組にビニール張ったみたいな小屋に荷物を置き、綺麗なやつなら有料だというヘルメットをもちろん無料でかぶり、早速長谷部ちゃんが馬にまたがった。

 もういきなり?初対面の馬にいきなり?

「あ、あの、この馬お名前は・・」「マリア」

言ってるうちに、あぁ、もう長谷部ちゃんとマリアは時計回りに歩き出した。

 いきなり一人で歩いてるじゃん、もう一人で乗っちゃってるよ~!とスミレは心で叫ぶ。講習とかレクチャーとかないわけ?いやなくてもいいけど、はじめの一周くらいは綱を引いたりして慣らす(乗り手を)のかと思ってたよ~!スミレは内心焦った。

 しかし、馬は1頭のみで、ほかの2頭は柵の中で休んでいる。どうやらひとりづつ乗るので、長谷部ちゃんの動きを参考に乗り方を勉強させてもらう。

 

 オジサンは、ずっとスミレといて、「はい、強く蹴ってー!」とか「そこから2周駆け足!」とか「右をひらいて」とか叫びながら、コツを教えてくれる。

 曰く、馬を動かすときは、踵で腹をポコポコ蹴ってやる。蹴り忘れると、人間を乗せていることを忘れちゃって、止まったりどっか行ったりする。だからずっと蹴ってやること。

 曰く、手綱を手前に引っ張ると止まる。方向を変えるには、引かないで、横に手を開くようにして首を動かす。

などなど。ふむふむ、なんかちょっとわかった気になってきた。長谷部ちゃんのやるのを見てると簡単そうだし、いけるんじゃね?

 

 30分ほどして交代。スミレ、行きまーすっ! 

 マリアが階段のような台に横付けして止まる。降りてきた長谷部ちゃんは、オジサンオバサンみたいにニコニコだ。馬に触れていると、こんな顔になるのかも。

スミレがマリアにまたがると、オジサンが手綱の持ち方を説明し、鞭を握らせる。

「走るときはこうやって、思い切り叩いて」えー、なんか痛くて可哀想で叩けない。

「大丈夫、音だけで痛くないから」と説得され叩いてみる。ピシィ!

嫌がっている感じはない。鞭は先にゴムの輪っかみたいのがついているもので、確かに痛くはないかも。

では出発!もちろんいきなり一人歩きのスパルタである。今度は反時計回り。

 ぽっくぽっくと踵で軽く腹を蹴ってやる。というか、揺られて当たってるという感じ。カーブは方向を変えずともマリアが勝手に曲がってくれることがだんだんわかる。

 オジサンがどんどん指示を飛ばしてくるので、それにあわせて1周ごとに歩いたり走ったりさせる。駆け足は本当に馬に乗ってる~~という気持ちでなんか自分がものすごく格好良くなったようだ。気持ちいい!リズムを取るためマリアに声をかけてあげたりして、スミレ、すごく上手なんじゃないか?

 と、調子に乗ってたらアクシデントである。

 ジャージを着ていったスミレだが、駆け足で裾がめくれ上がってくるのだ。めくれるぐらいなんてことないが、素足に何か(体をかがめて見ることができないので何かわからない)が当たって痛い。オジサンがゆっくり歩いているときに直しなさいと言ってくれるが、これも自分でできない。しかたなくオジサンが直してくれたが、駆け足でまためくれる。まぁ、いいか。我慢できないほどじゃないし。

 

 いきなり実践!のこの乗馬クラブ、始めは驚いたが、スミレはとても好きである。料金も手頃で良心的だし、オジサンはスパルタだけど、聞けば詳しく教えてくれる。乗馬を始めたい人にはぜひお勧めしたい。

 馬は正直だから、乗ってる人の言う通りにしか動かない。オジサンはそう教えてくれた。

 スミレが乗ったマリヤは、途中全く言うことを聞かなくなり、2回も違うところで曲がってスミレを困らせたが、これもスミレがさせているわけだ。奥深い。馬は可愛い。

 

 一人30分ほど乗って終了。確かに一人で乗れた、満足の乗馬だった。

 悲劇は終了後にやってきた。

 馬を下りたとたんに、足はガクガク、股関節が痛くて上手に立てないのだ。若い長谷部ちゃんは何ともないのに、スミレはよぼよぼの足取りで馬場を後にしたのだった。

 股関節から脚の筋肉痛の回復には5日ほどかかった。驚いたのが、ジャージがめくれて痛かったふくらはぎだ。帰ったら両内側が大きな青ジミになっていた。そんなに痛いと思わなかったのに。

 次に乗るときは、裾留がいるな。

 楽しい乗馬に気をよくしているスミレである。たまに馬に乗る、なんて格好いいよね。